俺たちの2013年はこれからだ~My favorite 50 tracks of 2012~

          / ̄\
        |      |
          \_/
          |
       /  ̄  ̄ \
     /  \ /  \
    /   ⌒   ⌒   \                                                        
    |    (__人__)     |                                                                                                
    \    ` ⌒´    /   ☆
    /ヽ、--ー、__,-‐´ \─/
   / >   ヽ▼●▼<\  ||ー、.
  / ヽ、   \ i |。| |/  ヽ (ニ、`ヽ.
 .l   ヽ     l |。| | r-、y `ニ  ノ \
 l     |    |ー─ |  ̄ l   `~ヽ_ノ____
    / ̄ ̄ ̄ ̄ヽ-'ヽ--'  / オープナ  /|
   .| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/|    | ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/| ______
/ ̄CD/|  ̄|__」/_オープナ  /| ̄|__,」___    /|
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/CD ̄/ ̄ ̄ ̄ ̄|/ オプーナ /|  / .|
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/l ̄ ̄ ̄ ̄| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|/| /
| ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄|
よくぞこの記事を開いてくれた褒美としてオプーナとMy favorite CDを買う権利をやろう

オプーナ - Wii

オプーナ - Wii

オプーナはプレイ及び、購入に際して権利書を有するが、このブログはタダで読める!!!!


はい、と言う訳で物の見事にタイミングを逃しまくりの所謂年間ベスト系の記事を「もう今更2012年ベストとかはいいだろう・・・。」と思いつつ、それでもやっぱり何となく特に音楽に関して一年を総括したような記事を書かないと本当の意味での年越しにならないような気がしたので、何とか無様でも形にしたいな、と綴った次第です。
これを投稿し終えてようやく、俺の2013年は幕を開けるんや、と思っています。


実を言うとこの記事、大体8割方が2週間ほど前には書き上がっていたんですが、最後に手直しやら何やらをして「さあ投稿するぞ」、と最後の一踏ん張りを入れようと奮い立った矢先にインフルエンザにやられて、ぶっ倒れてしまったと言う曰く付きだったします。
思えば2012年から、iPodが壊れ、パソコンが壊れ、ルーターが壊れ、と音楽を聴く環境にも暗雲が漂っている様に思えたこともありましたが、その締めに機関はとうとう俺の身体を壊しに来たか・・・
もうこれはあれか、スノッブ以下の臭いがプンプンする小物の駄文で汚される音源達がかわいそう・・・、という機関の陰謀か、いいぞもっとやれ
馬鹿野郎お前俺は書くぞお前(自己満の鑑)

前置きが長くなりましたが、「最初は年間ベストアルバム形式にしようと思ったけど、ベストトラックという括りにすれば好きな曲について触れつつ、気に入ったアルバムについても言及できてなおかつCDシングルの話もできるぞ!」という下心を丸出しにしながら書いた私的2012年お気に入り曲50選です。
私の汚れきった心とは真逆の輝きを放つ素敵な曲ばかりです。
一応、登場が後になるほどお気に入り度が高い、というランキングっぽい形式にしましたが、結構順位は曖昧な感じです。


50

Dishonour the Crown 「Gone to the Dogs」 from 「Gone to the Dogs」

メロディー?知らんな。
アクセル踏みっぱなしでそのまま地獄まで突っ込んでいくんじゃないか、と思わずにはいられないギチギチグチャグチャの猪突猛進グラインドコア
潔く速くて短くてうるさい。なのだけど、滅茶苦茶やっているようで、実は演奏にグルーヴが感じられるのが萌える。

49
 
Wreck and Reference 「Cannot」 from 「No Youth」

ズーンズーン・・・ごわ・・・ごわ・・・ぼそぼそ・・・ぎえぇぇぇーーーーーあうぅーーギュイーギュイーン・・・ピーピー・・・ぼそぼそ・・・ぎえぇぇぇーーーーーあうぅーーギュイーギュイーン・・・
ロキノン厨よ、これがエクスペリメンタルだ。」「お、おう・・・」
全曲基地○じみてたけど、この曲は特にヒステリックぷっりがドラマチックに思えて引いた。

48

METZ [帯解説付・ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (TRCP101)

METZ [帯解説付・ボーナストラック2曲収録 / 国内盤] (TRCP101)

「Wet Blanket」

ささくれ立ったバンドサウンドでヒステリックなノイズをざくざく鼓膜に突き刺していく汚いさすがグランジ汚いと言った感じの、20代ならきっと大好きな90年代のそれ系の空気を分かりやすく内包しているようでもあって暴力的なのに香ばしい不思議な魅力を持っていると思います。

47

Enter Enter MISSION!

Enter Enter MISSION!

Enter Enter MISSION!

アニメファンの間に壮絶な戦車ブームを巻き起こした、カワイイのに熱いスポ魂作品の主人公チームが歌う同アニメED曲。
吹っ切れたように爽やかでポジティブでポップでキュートで、2012年のほっこり大賞。やっぱり、音楽を聴く時というのは救われてなきゃあ 駄目なんだ。
よし、みんな秋山殿に夢中だな。この隙にまこタソを(デュフフ・・・)

46

All We Love We Leave Behind

All We Love We Leave Behind

「Aimless Arrow」

俺はConvergeの、実は理路整然としているんだけどそれを激烈な勢いで表面的には完全に覆い隠してグッチャグッチャに聴かせてしまう音楽性に強い魅力を感じています。
なので、妙に理性的な印象を受けるこの楽曲は当初今一ピンとこなかったのですが、何回か聴いているうちに、悲哀を放出したまま、それでも生粋の激しさは殺さずにつんのめる姿もこれはこれで良いなと、感じました。

45

Physical Therapy 「Drone On (Feat. Jamie Krasner)」 from 「Safety Net」

透明感溢れる歌声がなぞるメロディーこそ清涼感に満ちた心地よいものですが、そのゲストボーカルの繊細さをバックサウンドが下支えし、より幻想的な浮遊感を生み出すのに一役買っている・・・なんてことは全くなく、ドラムンベースな打ち込みが忙しなく転がり回っていたり、バブリーな90年代レイブミュージック風の電子音がビービー鳴っていたりと「キレイなシンセポップだと思った?残念実験音楽ちゃんでした」ってな具合に、優美な歌が自身の自由奔放な遊び心とのギャップを際立たせるために配置されており大変素晴らしいです。

44

窓

「箱船」

ギミックや荒々しさはほとんど取っ払い、歌声とメロディの魅力にフォーカスしたモーサムボーカリストのソロ作から。
音数をグッと抑えたバックサウンドが静寂を演出し、そこで百々和宏が囁くように優しく歌うが、曲のクライマックスでバンドサウンドがダイナミズムを放出すると、歌声にも何処か力強さが宿って、と心揺さぶる泣き演出に俺も思わず激情にかられる。
個人的にモーサムはストレートに乱暴なロックンロールを奏で叫んでいる姿に一番魅力を感じている口なのですが、このソロ作を聴いていると、実は百々さんの儚げな歌声や繊細なメロディーセンスもバンド本隊において重要なファクターなんだな、と言う事も再認識できた気がしています。

43

キルミーのベイベー!

ありがちなJ-popの枠に甘んじず、どたどた忙しない2ビートから変拍子まで噛ましちゃう。その上、音色雑多で最早カオティックな音像の中、やすなが煽ってソーニャが切れる!!
目眩くユーモアに取り込まれて気付けばわさわさwwwwwww
やっぱキルミーって神だわ。

42

teen suicide 「dont like me」 from 「DC snuff film」

何かむしゃくしゃしてて激しいモノが聴きてえ−、って思った時にbandcampで「black metal」タグ付けて検索したら一見さわやかなのによく見ると不気味なジャケが目について視聴せずにダウンロードしたら話が違うぞコノ野郎状態だったアルバムから一番スピード感があった一曲。
バンドサウンドが駆けながら奏でる音像もその上で歌われるメロディーも一応はポップだが、肝心の歌声は丸っ切りやる気を感じないヘロヘロ声でおまけに過剰なまでのリバーブ処理を施しているため、計算か天然かすら分からない音こもりまくりの正にローファイな質感の録音も相まって、却ってそれがゾッとするような狂気にすり替わっている印象。
そうした、軽薄なロックを趣味の悪い音質とアートワークとバンド名などでねじ曲げるひねくれ具合には強い魅力を覚えます。

41

Attack on Memory

Attack on Memory

「Separation」

エレクトロ系の余計な装飾は極力排し、加えてこの楽曲ではボーカルまでも取っ払いメンバー各々が紡ぎ出す楽器の音色のみで荒々しさと一抹の切なさを撒き散らしながら一気に駆け抜ける。その潔いまでの勢いにはセカンドにして既に貫禄すら漂っていると感じる。おセンチな感触の楽曲ではなくともその凛然としたバンドアンサンブルと仄かに寂しさを香らせるメロディーセンスでリスナーのハートを狙い撃つ、ローファイ、インディロック萌えの紳士淑女をキュン死にさせること必至なナイスなバンドに出会えました。

40

Avec Avec 「おしえて」 from 「おしえて」

美しい夜景を眺めながら聴きたい、上品なのに色気たっぷりのメロディーと女性ボーカルに優しく歪むシンセが華を添える、クラブ畠のトラックメーカーだからこそ生み出せたように思える、煌びやかで艶やかな、それでいて空間的な広がりを感じる、浮遊シティポップ。
意識が溶けそうな心地よさにうっとり。
都会の片隅にひっそりと構えられている、雰囲気最高のバーですか、ここは。

39

邪神曲たち

邪神曲たち

後ろから這いより隊G太陽曰く燃えよカオス

悔しい・・・でも・・・(」・ω・)」うー!(/・ω・)/にゃー!
嫌よ嫌よも好きのうち。一度嵌まれば抜け出せない。エレクトロミュージックの後ろに這いよる混沌
イギリスのクラブシーンでは生まれもしないであろう、日本発のイカレポップ、それが電波だ!!!
何だかんだで脳内ループが止まらなかった。
パロだけ、ステマ、等と揶揄されがちですが、このOPも含め終始妙なハイテンションぶりを維持し続けた作品の痛々しいまでの勢いは素直に評価されても良い、と私は考えています。

38

Major Lazer 「Get Free (feat. Amber of Dirty Projectors)」

クラブミュージック界隈のプロデューサー二人組が今年発売の新作アルバムからDirty Projectorsの甲高ボーカルが魅力なAmber Coffmanをシンガーに招いた先行公開曲。
先ずは何より、ロックはロック畠の、クラブはクラブ畠のフィールドで住み分ければ良い的なクッソつまんない概念を悠々と飛び越えるクロスオーバーっぷりに痺れる訳ですが、音の方もそれに見合った面白味を内包しています。
本家なのに既にリミックス的なサウンドは、Amberのキンキン響く歌声を所々で何層にも重ね、浮遊感漂うミステリアスなトラックの上を気ままに泳がせていて、綺麗な中にも棘がある刺激的な実験性が何ともクールです。
一つのジャンルに拘りを持ってそれを貫徹するのも素敵ですけど、アンテナを張り巡らし様々なジャンルと向き合うのも格好いい音楽の形の一つだと俺は考えています。

37

Captain Murphy 「Between Friends Ft. Earl Sweatshirt」 from 「Duality」

彗星のごとくシーンに登場した謎のラッパーのミックステープから、Flying Lotusお得意の冷淡だが煌びやかな雰囲気のビートの上に淡々と言葉を乗せていく、やはり亜流クラウドラップ等とは一線を画する優美な空気感が素敵なこの曲。
Captain Murphy一体何者なんだ・・・。
俺の英語力がアレだからアレですけど、因みに、Flying Lotus以外のプロデューサー提供のトラックでもスムースにラップしている感じがして、もしかして繊細で多彩な音を生み出す人は、そこに上手く声を乗せる術も既に心得ているのかな、と考えてみたり。
トラックに関しても、シンプルなループでも何処か耳に残る中毒性は貫徹しているし、一曲一曲のアウトロで必ずそれまでの展開を断ち切る様にラップなしでの音遊びを貫く等、自身の出自に対するこだわりも感じられ、やはり面白い存在だなと。

36

B級映画のように2

B級映画のように2

「Straight outta 138 Feat. ECD

アルバムタイトルが「B級映画のように2」と言うことで、ヒットチャートを賑わす音楽に顕著な楽しげで華やかな雰囲気のトラックやテーマ等とは距離を置き、ストイックに自己の内面から気に入らない社会へのディスまで様々な視点を同じく様々なタイプのトラックに乗せラップしている、コンセプチュアルで感情の起伏すら感じ取れる奥深い作品。
特に後半#7「ロンリー」以降は名曲の連発でその中から一曲をベストトラックとして選出するのは中々迷う程の農濃さ。がやはり、ECDを招いたこの「Straight outta 138」は性急なビートの上に、巧みなライムを交えながらも、ただユーモラスなだけではなく感情の昂ぶりまでも犇犇と漂わすフロウを乗せ、ワーキングプアやら風営法やら原発やらの正にリアルタイムに蔓延る日本の悪しき矛盾とそれを引き起こすのに一役買っている利己的な政治家やマスコミ関係者らに容赦なく毒づいており実にスリリング。
優れたMCは社会への視点も鋭いのだ!

35

JJ 「High Summer」 from 「High Summer」

一夏が無情にも過ぎ去っていく時の感覚に陥る儚くて、切なくて、でもちょっぴりロマンチックな煌めきを放つ珠玉のドリームポップ。
美しく折り重なる歌声のハーモニーと浮遊感を漂わす音響が見せる幻覚は、正に夢見心地という言葉がよく似合う。いとをかし。

34

Lil B「Tropics」 from 「Gods Father」

次から次へとミックテープを配信し、シーンを追うのに熱心なヒップホップリスナーのPC容量をどんどん侵略、遂には848曲入りという、「他にやることないのか?」と軽く心配にすらなる作品まで公開した、ミックステープ過剰投下兄貴Lil Bさんの34曲入り作品の中から。
ソウルフルに声を振り絞りながら歌うMillie Jacksonの情熱的な音源をサンプリングしたトラックに気怠そうだが、耳に残るフロウを粛々とぶつけている。その妙な塩梅が面白い化学反応を起こしており、思わずほっこり出来る。
とにかく数々のトラックに矢継ぎ早にラップで挑んでいる意欲的な姿勢も凛々しくて震える。

33

RE;STORY(初回限定盤)

RE;STORY(初回限定盤)

「re;story」

タレントではなく声優、俺達のキタエリの1stアルバムタイトル曲は自身が好むシンフォニックメタルやV系ロックのエッセンスを抽出した、勇壮、シリアス、エッジィ、ファスト、メロディアスな美味しすぎる楽曲。そしてその真ん中を行くキタエリの艶やかな歌声も堂に入った存在感を示しており、失禁しそうな程クールビューティー
役柄でも個人的にキタエリは活発女子よりも、ガルパンダージリンさんやまよチキの奏お嬢様のような凛々しい声の出し方の方が好みだったりする。

32

MASS OF THE FERMENTING DREGS「たんたんたん」(画像はジャケではなくイメージです。)

昨年から今年にかけて、国内の「今後がとても気になるバンド」が相次いで活動休止や解散を発表してしまい大変残念な気持ちになりましたが、このバンドもそのうちの一つです。
彼女たちが最後にバンドとして届けてくれたのは、自分たちの苦しい心境を吐露しながら、それでも必至に前を向こうとする、エモーショナルで力強さに満ちた真っ直ぐなマスドレロックでした。
その余りの純真さに涙腺も緩む。ありがとう。

31

Angel Haze「New York」 from 「Reservation」

2011年に惜しくもこの世を去ったブラックミュージック界の巨匠Gil Scott-Heronがその一年前に発表していた、ほんのりと歪みを聴かせる電子音と軽快なハンドクラップが木霊するトラックが印象的なNew York Is Killing Meを大胆にサンプリング・・・と言うかほぼビートジャックした一曲。
元ネタは、還暦を過ぎた老体に見合わない様にも思える、音数は少ないのに何処か若々しいビートに、深い渋味を伴わせた歌声を見事に溶け込ませ、その食い合わせが強烈にフレッシュな革新性を生じさせていました。
が、そこに乗る声が凶暴さはなくともアグレッシブで挑発的な女性のフロウにすり替わると、これまた原曲とは違った色気がシンプルなトラックに宿ってしまうのが大変興味深い。
同じ音作りでも、それを乗りこなす声の主次第で如何様な印象にも化けうる事を、物怖じすることなく言葉を詰め込んだAngel Hazeのラップが証明しているようで音と声の化学反応の奥深さを痛感した次第。

30

BIRTHDAY(期間生産限定盤)(DVD付)

BIRTHDAY(期間生産限定盤)(DVD付)

ナイショの話

小気味よいシャッフル・ビートを豪快に下支えするみんな大好き柏倉隆史氏のドラムを筆頭に、ロックな味付けを施した音作りはかなりタフな印象を受けるが、それを躊躇なく、まだ何処かあどけない雰囲気(まだ現役高校生だから当然だよね!!)の歌声で可愛らしいメロディーを聴かせるJ-popとして成立させてしまう、プロデューサーの手腕もまた痛快です。
骨太なのに洒脱、なのに何処かヲタっぽい、と色々と個人的にも美味しい一曲です。

29

Good Kid M.a.a.D City

Good Kid M.a.a.D City

「Swimming Pools (Drank)」

自分の人生を振り返り、それを題材にしてコンセプチュアルなストーリーを描き出す、内省的だがドラマチックな映画のようでもある本曲収録アルバムは絶対英語の意味がダイレクトに伝わってくる方が、その魅力の心髄を楽しめるんだろうなー、と思いつつ日本レコード会社が和訳付きの国内盤を出しやがらない海外メディア大絶賛の作品から。
けれども不穏な雰囲気が漂うトラックに乗せ、自身のアルコール依存について淡々とラップする彼のフロウは言葉の意味が理解出来なくとも、声の調子から異様に鬱々とした俯きがちな表情が見て取れる様だし、フックで迫真的なダイナミズムが襲うスリル溢れる展開はサウンド的にも耳に訴えるものがあると感じました。
他にもMoney TreeではBeach Houseをサンプリングする等、物憂げで感傷的なトラックが満載のメランコリーな音楽が好きな人ならヒップホップ門外漢だろうが引き込める求心力を持った作品ではないかと。
因みに、こちらの作品解説が大変素晴らしいと感じたので、作品の世界観などを理解したい方は是非ご参照を。

28

HELLBLAU(初回生産限定盤)(DVD付)

HELLBLAU(初回生産限定盤)(DVD付)

「KA NA SHI MI NO A N JI」

「シンセスピアンズ」の頃の様な狙い澄ましたチープなダサ格好良さは後退し、音作りは丁度、まりんも最近のソロ作でやっていた温もりを排除したミニマル・テクノのようなスタイリッシュで毒々しくもあるエレクトロミュージックにシフトしている印象。ユーモラスな歌詞やノスタルジックなポップネスも石井関連の作品の中ではかなり抑え目で、それが強固でもあったかつての、Goatbedならではの音楽性という部分を薄めている様にも感じますが、まぁいずれにせよ好みな音作りで、そこに好みな歌声が健在でさえあれば、アルバム全体では少々食い足りない印象を覚えても、はまる曲にはどっぷりはまってしまう訳で。
アルバムラストを飾るこの曲は、冷ややかで虚無感すら漂うタイトル通り悲しげなエレクトロサウンドの上で石井秀仁の妖艶な歌声が反響する、思わずトリップしてしまいそうになるドープな仕上がりで、こういうアバンギャルドな側面は忘れることなく披露してくれるから、やはり頼もしい。

27

孤高の画壇

孤高の画壇

「コスモナウト」

情熱的に奏でられる鍵盤と緩急自在のリズム隊としなやかなに掻き鳴らされるギターが織り成す強靱なアンサンブルで「静」と「動」を縦横無尽に駆け回り生み落とされるのは、言葉や声を用いるまでもなく溢れ出る叙情的な音の空間。
楽器はね、時に余りにも美しく歌える無限の可能性を秘めているんです、と言う事を突きつけてくるフレッシュな響きに満ちたゆとり発の美インストロックに痛烈に耳を打たれました。素晴らしき快感。

26

自由へ道連れ

自由へ道連れ

斜めに構えた音楽性が主軸になりつつある林檎さんが林檎印のポップネスが炸裂するABサビを切れっ放しのバンドアンサンブルの疾走と共に声を荒げながら歌う、こんなどストレートなキラーチューンをぶっ込まれたら瞬殺されるしかないじゃない!!
俺が一番惚れたのはこういう曲なんだよなー。

25

SAMURAI SESSIONS vol.1(初回限定盤)(DVD付)

SAMURAI SESSIONS vol.1(初回限定盤)(DVD付)

「祈りを」

様々なフィールドで活躍するミュージシャンに雅が持ち前のギターテクで真っ向から化学変化を起こしにかかる異色セッションアルバムから、ラストを飾る亀田誠治坂本美雨とのコラボ曲。
超絶なスラップ奏法であらゆる場面でも強靱で主役級の存在感を示す雅のギターもここでは優しいベースラインをなぞる亀田誠治と共に、坂本美雨のタイトル通りスピリチュアルなムードさえ漂わす清らかな歌声とそこに優しく寄り添う雅自身のたおやかな歌声の両者により鮮やかに彩り添える名脇役として機能している印象。
それぞれがそれぞれの良さを引き出し合いながら個性をぶつけ合った結果、あらゆる負の感情を完膚無きまで粉々にしていくような幸福が支配する楽曲が生まれた。
これぞコラボ作のあるべき姿だと感動を覚え、俺の汚れきった魂まで洗い流されていくようですよ。

24

Joey Bada$$「Don t Front Feat CJ Fly」 from 「1999」

物騒な銃声や悲鳴が轟く厳ついハードコアとも、R&Bやケバいエレクトロミュージックに迎合したセルアウトとも、はたまたミステリアスな雰囲気が漂うダウナーなクラウドラップともまた違う。
ヒップホップ黄金期等とも呼ばれる90年代初期頃を見つめながらそれを過去への憧れとフレッシュな視点を織り交ぜながら、現在に持ち込んだ非常に興味深いミックステープから。
特にこの曲は鋭いスクラッチに穏やかで心地よいLo Borgesの楽曲をサンプリングし、そこに軽快にラップを乗せていてその余りのしなやかさに思わず恍惚。
これで年齢は2012年時点で田村ゆかり姫とタメの17歳って言うもんだから、あ、こいつ実は永遠の17歳だな、とか疑いつつ、やっぱりまだまだ新しい才能は出現してくるんだなー、という心強さも噛み締める訳です。

23

Money Store

Money Store

「Hacker」

頭からケツまでボーカルもビートも上モノも何もかも楽曲を形成する音の一つ一つがとにかくハイテンションでむさ苦しくてうるさい。が、特にこの楽曲に関しては最後の締めという事を意識したのか、フックが明快でその分爽快感も強いという、「最後だからウルトラハッピー成分強めで行くか!」的な思惑を何となく感じてしまい思わず微笑んだ。
そんなDeath Gripsは、この楽曲が収録され、多くのメディア等から高い評価を得た「The Money Store」リリース後、レコード会社と揉めフルレンスの新作を独断でフリー配信するという何ともセンセーショナルな事件を起こす。
自分でネタをまき世間に注目させ、その期待以上のものを次の作品で見せつける
本当にこの世は金と知恵ですよね 亜城木先生!(極悪ドヤ顔)
とまるでバクマン。の展開の様にすら思えてしまう程に野心的で、そして何よりレコード会社への社畜精神に中指だけで無くTNTNまでおっ勃てるパンキッシュなアティチュードにもやはり惚れ惚れしちゃう、今後も目が離せない存在。

22

Danny Brown「Grown Up」 from 「Scion A/V Presents: Danny Brown - Grown Up」

余計な装飾は極力抑えて、音数は少なくとも低熱でシリアスなムードを醸すトラックにDanny Brownは特有の耳にへばり付く様な粘着系のラップをひたすら吐き出し、要所で切れまくりのスクラッチがクールなムードを後押し。
何というか、今の時代にあえて小細工なしで剥き出しのヒップホップの魅力を体現しようとしている印象を受けて、直球で直走るスタイルが却ってスリリングに思えた。
ラップミュージックを敬遠している人にもストレート故に響くものがありそう。

21

Chief Keef「Save That Shit」 from 「Back From The Dead」

キックはずっしり重く鼓動を奏で、多重コーラスはむさ苦しく響き、ラップもエフェクト加工が施してあり耳にこびりつき、と胸焼け起こしそうなほど濃厚なガチャガチャした音作りだが、そうした騒がしい音響をすり抜けて突き進む妙にキャッチーで鮮やかですらあるメロディーとそこににほんのり寄り添うエレクトロな装飾が全てを掬い上げる。
収録ミックステープでの曲順的にもハーコーな流れからリスナーをカタルシスへ導く様な役割を担っているのか、いかにも厳つそうなヒップホップの楽曲に爽快感までも宿らせており実に痛快。

20

TALWST「Colors」 from 「Alien Tentacle Sex」

The Weekndの作品に大きく関わったIllangeloがプロデューサーを務めていると言う事で、音の方は確かに冷ややかな雰囲気が漂うR&Bと言った趣が主。
この曲でも煌びやかだけどやはり涼しげな音数の少ないアンビエント風のトラックが用意されています。が、序盤の低いトーンからメロディーが開放的になるに連れて情熱を振りまき突き抜けていくリリカルな歌声が、クールな音像とは対照的でむしろそれをより鮮やかなカラーに染め上げていく展開が何とも胸熱です。
盛り上げ所を如何に魅力的に表現するか、というドラマの作り方の秀逸さに打ち抜かれました。

19

Azealia Banks「LUXURY」 from 「FANTASEA」

トラックは4つ打ちを導入してややダンサブルなリズムが敷かれてはいるけど、上モノの音使いが無機質だったりミステリアスだったりと錯綜しており、キラキラとしたかわいらしさではなくサイケデリックな怪しさを演出する、中毒性抜群な仕上がり。
それと合わせるようにAzealia Banksもラップは異様に淡々と呟き、いざメロディーを歌い上げるとなると、セクシャルな香りを振り乱しながら妖艶にしかし伸びやかに強烈な存在感を示す、と完全にキャラクターをバースとフックで使い分けているようで、イカしたトラックは完全に乗りこなされ、すっかり彼女へスポットライトを当てさせる名舞台と化してしまった印象。
こりゃあ、最高なじゃじゃ馬だぜ。超痺れる。

18

「Raymond 1969」

本国では元々デジタル配信限定リリースだったが何故か国内盤でのCD化が実現した愛しさと、そのCD化にあたり大人の事情でA$AP Rockyとのコラボ楽曲が未収録になってしまうという切なさと、それでも密に詰まったダウナーなヒップホップの連打連打にひれ伏すしか無い心強さが入り交じるLA出身ラッパーの傑作セカンドから。
Kendrick Lamarは自己内省をテーマにしたストーリーをアルバム一枚を通して描き出すために、そのシリアスな生い立ちに沿ったナイーブでドラマチックな雰囲気のトラックを多く用いた印象だった。一方でこちらはもっと突き詰めてダークで気味の悪い世界観を演出する根暗な小生も大好物な陰鬱クラブミュージック系のドープビートが満載。
そんな中でもこの曲は90年代厨なら脊髄反射で濡れてしまうであろうPortisheadの「Cowboys」を下敷きに、レイモンド・ワシントンというギャング集団の創設者をキーにアメリカの狂気を物騒なリリックで綴り、それをぶっきらぼうなフロウで吐き捨てるという、ロックファンも大満足な仕上がりになっている様に感じ特に引き込まれました。

17

ライフ・イズ・グッド

ライフ・イズ・グッド

「Daughters」

ストリートのリアルを哲学的な言葉選びで綴るヒップホップ界最高峰のリリシスト、King of NYのNasさんも、流石に愛娘が余所の男に誑かされているとなると、ついつい取り乱しがちになってしまうようで、自己の過ちや弱気な心情さえ曲中で吐き出している。
「俺も娘が生まれたらこれくらい溺愛するのかなー。」とか考えつつ、俯きがちなパパの複雑な心境に和訳を眺めながらちょっぴりしんみり。
それでも言葉の意味がダイレクトに伝わってこないTOEICスコア[禁則事項です]な俺には、70年代のソウルミュージックを引っ張り出してきたヒットメーカNo I.D.によるトラックに華やかな女性コーラスを絡めながら、やはり畳み掛けるように流麗に言葉を並べるフロウがスリリングに耳を駆け抜けるクールネスなサウンドとしても楽しめるのがまたよし。

16

Rick Ross「Mine Games (Feat. Kelly Rowland)」 from 「Rich Forever」

後ろに立たれたら取りあえずチビってしまいそうなメメメメメイバックミュージックの首領リック・ロスさんだって強面ハーコーな側面だけでなく、セクシーな歌姫を交えてほろ苦いラップだって披露するんです。重量級のボディブローを喰らわせまくってフラフラしている所にこんなビタースイーツ置かれたら旨さ一入です−。
今年も良質なフリーのミックステープが沢山配信されたと思いますが豪華絢爛という意味ではこれが収録されている「Rich Forever」が頭一つ抜けている気がします。太っ腹なのは体系だけじゃないって訳ですね。

15

Action Bronson「Pouches Of Tuna ft. Roc Marciano」 from 「Blue Chips」

何とハードロックバンドExtremeの「Rest in peace」からイントロでネタっぽく取り入れられているバイオリンの演奏を引っ張って来てループしているトラックに客演のRoc Marcianoと共にストIIザンギエフの様な巨体な風貌から受ける印象とは裏腹な、ややテンションを落としたクールなラップを乗せている。
収録ミックステープのオープニングに据えられているが、マンネリ化したインストを据えるよりもよっぽど掴みばっちり遊び心たっぷりで「いったい何が始まるんです?」と思わず聴き手を身構えさせること請け合いの作品の幕開けに相応しい曲だと思います。
元ネタのあのイントロがヒップホップのトラックとして組み込まれると、これ程中毒性を持って響くとは、と言う様にプロデューサー陣のアンテナの張り方やアイディアのアウトプットの仕方なども研ぎ澄まされているとしみじみ。

14

Vaenus「diediedie!!」 from 「Nekophiliac/Vaenus Split」

猥雑で暴力的な打ち込みビートに辛うじて聴き取れる「ダイダイゲハゲハ」とほぼ言語の体を成していないサンプルボイスが木霊する激烈ハードなロリ要素ほぼ皆無のロリコアだが、最後の最後で不意に反則級にメロディアスな展開をねじ込んでくる、ただうるさいだけじゃない痛快爽快殺傷力抜群の正にキラーチューン。俺の心も弾みっぱなし。
昨年は例年に比べてCDを買えなかったけど、bandcamp等を徘徊して、メディアに頼りっきりでは中々見つけることは出来ないであろう刺激的な音楽に出会うことが出来たのは収穫だったな。
カッコカワイイ忍タソのジャケも最高。

13

Kaleidoscope Dream

Kaleidoscope Dream

「How Many Drinks?」

センチメンタリズムがキラキラ輝くアトモスフェリックR&Bの宝石箱からの一曲。
収録アルバムは芸術的で重厚な趣よりも、ロックやファンク、ソウル等を織り交ぜながら順当に耳に馴染むポップスとして仕上げているトータリティの高さが秀逸だと感じます。
そんな中、セルフプロデュース曲は勿論、O'Donel Levyをサンプリングした他者プロデュースの本曲では芯の太さを感じる伸びやかな歌声にゲストシンガーでも招いているかの様な超ハイトーンコーラスを重ねる等、声色の使い分けに圧倒され、本作の主役は飽くまでも歌声である事がよく分かります。
派手でテンション上げ重視のセルアウトポップスは聴きたくないけど、メロディアスな音楽が好きなワガママさんは迷わず本作を聴いて妖艶な歌声に浸りましょう。

12

シングルコレクション+ミツバチ

シングルコレクション+ミツバチ

「猫背」

寂しげにしかし優しく響くピアノの伴奏に中盤から加わるストリングスも過剰な自己主張はせず飽くまでも音色に静かに彩りを添える事に徹している印象。
最早坂本真綾はシンプルな薄化粧でも、その幾分かの繊細さと長い歩みの中で培ってきた凛々しさを内包した歌声があれば、奥深くリリカルな世界を十分に表現できる、と言う事を改めて強くアピールする感動的な一曲だと思います。
菅野よう子さんの音作りも、何処か立派に成長を遂げ続けている我が子を一歩引いた所で見守っている様ではありませんか。

11

INSIDE IDENTITY

INSIDE IDENTITY

「OUTSIDER」

2012年アニソン界隈の作家クレジットでよく名前を見かけたZAQ氏の楽曲の中でも個人的に一際胸を打たれた楽曲がこれ。
ヘビィなバンドサウンドにキュートな声優ボイスとキャッチーなメロディーが乗る最近増加気味のアニソンの一つの型にはまった作りには思えるものの、そんなちんけな懸念なんかは闇の炎に抱かれて消し去ってしまう程のダークフレームマスターが操る炎並みに熱いヒロイックさがこの楽曲には宿っている。
正直シリアル展開で迷走していった様に思えるアニメ本編よりもよっぽど「中二病」の勇ましさを体現している痛々しさと愛おしさが錯綜する愉快痛快ヘビィポップだと思うのデス。
中二病は現実からの逃避行ではなく生き様なんだよ!俺はそう信じている。だからこそ言おう!爆ぜろリアル!!

10

TOTAL

TOTAL

「WE CAN...」

特に初期に顕著だった、おどろおどろしいトラックの上に何処か抽象的だが鋭く威圧的なリリックで北の地から日本全土に牙を剥いた若さ故の衝動的なアグレッションは鳴りをひそめ、硬く冷ややかな雰囲気のビートの上で「あの悲惨な日々を通過し、今を生きている俺やお前に何ができるのか」を問いかけるようなラップが印象的なアルバムから。
完全後追いではあるけど、俺も1stに衝撃を受けた口なので、そうした作風の変化に寂しさを覚える部分も確かにある。しかし、幻想的で美しいインストを終え本作の真の幕開けとも言えるこの曲から強く感じ取れた、日本語の一つ一つの響きを重んじ、言葉を目一杯詰め込んでいる様でありながら流麗に韻を踏むスキル、そして過ぎ去っていった自分たちの過去や仲間、ライバル達を振り返りながらも、やはり前を見つめ「俺達はまだまだ高く飛べる」と高らかに宣言する力強さには痺れるのである。
賛否両論はありそうなものの、アルバムとしても、シーンをそして今を生き抜いてきた存在としてヒップホップを通して今後自分たちはどう生きていくのかに真摯に向き合った重要作だと思います。

9

The Klock

The Klock

「The Klock」

いつも通りのデジタルとヘビネスが織りなす攻撃的なサウンドに圧倒され、何時になく優美なメロディアスパートに酔う。
まるで「ヘルタースケルター」と引っ掛けたかのように、一曲の中で露骨に「醜」と「美」のコントラストを描き出している。
AA=の新機軸の様で有りながら、デジタルに大きく舵を振り切るより前のMADの頃の作風に回帰したかのようにも思える上田剛士という男の歩みの長さも感じた、テンション上げつつ、不意に心を抉られる名曲だと思います。

8

Nakaji「近江謳歌-Lake Side Boogie-」 from 「音洒落吐露(改)」

2012年はミュージックマガジンでの特集等をきっかけに日本語ヒップホップのミックステープも結構ダウンロードして聴いていたのですが、その中でも群を抜いて自分好みだったのがこれ。
この曲のリリックで自ら述べているけど「JAZZにFUNK ブルースにフォーク/演歌とCLASIC ロック&HIPHOP」を織り交ぜ、日本語ラップに対するイメージが「悪そうな奴は大体友達」で止まっている人達を出し抜くような軽妙洒脱なフロウで突っ切る。
日本人による下世話な外人かぶれ的な音ではなく、ブラックミュージックを重要なルーツに置きながらも、それらの解釈や再構築の仕方が完全に和風であり、立ちこめる空気は大正ロマンや或いは丁度ジャケで使われている遊郭辺りをテーマにした映画のBGMのよう。
正しく和洋折衷な日本人ならではの研ぎ澄まされたセンス、視点に完全にロックオンされました。
日本のラップミュージックに偏見を持っている人こそ聴くと良いかも、と思いました。

7

R.a.P. Music

R.a.P. Music

「Big Beast Feat. Bun B, T.I. & Trouble」

ヒップホップのビートに腰を求めるなら、或いはラップミュージックのサウンドに攻撃性を欲するならばこれを聴かない手はないですよ、奥さん。という訳で、Outkastの客演でデビューしたラッパーがEl-Pに楽曲制作を一任したアルバムから。
アルバム後半のシリアスな雰囲気のトラックで聴かせる何処か物憂げなフロウも魅力的だが、前半の押しっぱなしな展開もかなり圧巻で特に冒頭のこの曲は、インダストリアルメタルのような凄まじい破壊力を提示してくるバッキバキの音圧、ビヨビヨとサイケデリックにうねるエレクトロニックな音色、豪快な客演人も揃い踏みで矢継ぎ早に吐き捨てる扇動的なマシンガンラップ、それら一曲に詰め込まれた音の一打一打が決定打的なパワーを持って的確に俺の鼓膜をクリティカルヒットで速効ノックアウト。激クール!!

6

卒業と、それまでのうとうと

卒業と、それまでのうとうと

「春に」

春がやってくる度に感じる新しい日々に対する淡い希望と、理想とのギャップにうつむく憂鬱と・・・。
「今年はきっと変わるから」「もう一年も終わりかー」「ちょっと待って、カフェラッテ」を繰り返してる間に私も今年で受験ですよ、成人ですよ、卒業ですよ、就職ですよ、定年ですよ。おいよせ。
このまま時が止まれば良いのに・・・とは、多分誰もが思うことですよね。
その辺の繊細だったり狂おしかったりする、複雑だけど非常に人間味に満ちた春先に誰もが抱きうる感情の起伏をある種残酷なまでのリアリティで描写した、刺さる人にはどんなラディカルな言葉よりも深く深く胸に突き刺さって風穴を開ける、日本語の美しさ素晴らしさを堪能できる一曲。
歌詞が良いって言う常套句は、本来こういうリリックにこそ相応しい。

5

蛇姫様

蛇姫様

「鉄壁」

静かな鍵盤のみだった序盤から一転して熱情に満ちたバンドサウンドが加わり、「自分を愛してくれる愛する人たちへの思い」を優しくも力強いメロディーに乗せ切々と歌うべったべたなロッカバラード。
こんな曲を投げかけてその後さようならとか告げられたら、もう泣くしかないじゃない・・・。

4

Vanitas

Vanitas

「A Metaphor for the Dead」

アルバムの締めと言う事で特にこの曲は分かりやすかったですが、これだけクッソ汚くてクッソうるさいのに基本的にどの曲でもほんのりと哀愁を忍ばせて奇妙なキャッチーさまでも生み出してるって凄いよな。もう相変わらずの衝撃と感激で開いた口から涎垂れっぱなしですよ。

3

Allelujah! Don't Bend! Ascend!

Allelujah! Don't Bend! Ascend!

「We Drift Like Worried Fire」

10分を優に越える大曲が苦手のゆとり世代だろうが何だろうが、長いブランクを経てもなお相も変わらず、静寂と狂騒、美しさとスリル等、諸々の相反する性質の混在が生み出す音楽、それを通して構築される超絶重厚な世界へと引きずり込む。
連れ込まれたら最後、最早抜け出す術などなく、その世界の終焉を見届けるまで固唾を呑んで立ち尽くすのみ。
これだけ圧倒的な20分を音楽で表現できる存在がどれだけいるだろうか。
で、この曲に顕著だったんだけど、今回、アルバム全体の流れも、或いは大曲が持つ密度満開の1曲の中で繰り広げられる展開も何時になくなだらかで、本当に息を呑むほど神秘的で、一曲がその長さである必要性みたいなものも明快な感じがして、つまり個人的にGY!BEのアルバムの中でもかなりのお気に入り作品だこれ、とか思っちゃった訳です。

2

お後がよろしくって・・・よ!

お後がよろしくって・・・よ!

「お後がよろしくって…よ!」

Q.この曲の好きなところは?
A.つまんねーこと聞くなy(ry
ハッピーなコード進行、適度に作品とリンクさせた電波な歌詞や派手な音使い、等々楽曲を構成する各要素が高次元で手を取り合った、畑亜貴×神前暁タッグの心髄とも言える高品質ポップス。
クールからあざとカワイイまで、それぞれ違う魅力を持った五人の声優達の歌声も中毒性に拍車を駆けていると思います。
とにかくよく聴いた。
因みに好きなじょしらくメンバーは、
ウザンヌちゃん>>>>>>>>>越えられない壁>>>>>>>>>>その他五人。

1

チャンネル・オレンジ

チャンネル・オレンジ

「Thinkin Bout You」

初めてFrank Oceanの歌声を音源でしっかりと耳にしたのは2011年にリリースされたKanye & Jay-Zのコラボ作「Watch The Throne」での客演での事だったと思います。
セレブリティとアングラを共存させた傑作「Watch The Throne」のオープニングを飾る「No Church In The Wild」は重厚なビートとフロウで凄みを轟かせるあの作品の幕開けに相応しいナイスなトラックでしたが、その曲のド頭に据えられたのが何処かミステリアスな雰囲気を漂わせたFrank Oceanの歌でした。

その歌声に魅せられ彼の事をもっと知りたいと思いフリーのミックステープ「Nostalgia, Ultra.」をダウンロードして聴いた所、ColdplayRadiohead等の音源のユーモラスな使用方法から益々彼に惹かれたものです。
そうして、彼のフルレンスを待ちわびている所にふとしたきっかけから発表された彼の声明を私も目にしました。
彼の綴る言葉(これは翻訳が大変素晴らしかった事もありますが・・・)の一つ一つが優しかったり、寂しかったり、ととても繊細で美しく彼の経験した狂おしい恋心の余りの切なさには思わず涙腺が緩みそうにもなりました。
会いたくても会えないというのではなく、そばにいるはずなのに伝えることが出来ない、伝える事で全てが崩壊してしまいかねないという性別の壁を越えた複雑な心境、そして遂に思いを相手に言葉で届けるも決してお互いの思いは交わることがなかった、という結末は正に叶わぬ恋ではないか、と感じたのです。
彼は自分がいる現実よりも輝かしい世界を音楽を作る事で描き出したい、と考えていたようですが、正にこの曲では、そうした過去の苦しみと真摯に向き合い、それを痛いほどに眩しいナイーブなラブソングとして昇華していて、曲の素晴らしさとクリエーターとしてのその残酷なまでに純粋な創作意識に激しく胸を打たれるのです。




あとがき・・・。

Mr.Ya「ぬぅあ〜疲れたもおぉぉぉぉん!先輩きつかったッスね50曲は。」
Mr.Mu「あぁー、もう50曲はすげぇーきつかったゾ〜」
Mr.Ya「こんなん毎日続いたら 辞めたくなりますよ−、ブログゥ〜」
Mr.K「はてなで一日分しか記事書いてない奴が何を・・・(嘲笑)」

はい、そんな感じで、一応気に入った楽曲の話をしながら収録アルバム自体も強い魅力を感じたものはその流れでアルバムの話もしつつ、ちょっと何言ってるか分からない駄文で感想を書いてきました。
これなら、年間ベストという括りでアルバムの事を中心に話しつつ気に入った楽曲についても所々書いた方が分かりやすくて良かった気もするし、何だかどっちつかずの中途半端な記事になってしまった気もしますが、取りあえず2012年分はこういうお気に入り曲を挙げていく体裁で私の年間ベストを締めようと思います。
皆さん、良いお年を。
もう始まってる!!(2013年)

と言う訳で「あんまりネットスラングを使うなよ。キモく見えるぞ」と頭の中でオサレな師匠の声が木霊して心苦しいですが、せっかくはてなのアカウントを取ったのだから、ただライフハックをブックマークしては「よっしゃ、これで俺もエリートに変わるな!」と実践もせず空想のみ繰り広げる、という不毛な日々を脱し、何とか精進して今年こそはここでももう少し定期的にブログも書いていけたらな、と思います。
その折には、何卒よろしくお願いします。

最後に、当リストのNo.1〜31の楽曲からさすがに長すぎるので除外したGY!BEの楽曲以外の30曲を順番ごちゃまぜにして8tracksに詰めました。
その1
その2
その3

俺の文章がキモいので受け付けない、という方はこちらで気持ちいい音に触れていただけると、思います。

こうして眺めてみると、出来るだけ偏りなく、色々な音に触れたいと常々考えていますが、2011年に引き続きややヒップホップに好みが偏りがちになりました。後、煌びやかだけど鬱っぽいR&Bにも強く惹かれたかな。
結局私は、綺麗な中にも毒があるもの、毒々しさの中に明快なメロディーがあるもの、等に魅力を感じるのだな、とも改めて。
例年以上に海外メディア頼りなアンテナの張り方をしてしまったような気もするので、今年は、また素敵な音楽に出会うことも含めて、気持ち新たに、様々な面で行動的な男になれたらな、と考えています。
無駄に長い記事になってしまいましたが、ご付き合いいただき誠にありがとうございました。

私的2011年ベストアルバム20選 


これまでのあらすじ。
以前までは、某アメブロにて音楽ブログ(笑)を執筆していたが、アメーバの鯖がアレな雰囲気になってきたし、良い機会なので心機一転しようと別なブログを立ち上げてみたのだった。
そしてついでに年末なので、新ブログでの自己紹介も兼ねて、超感覚的な駄文で今年聞いた音楽作品の中で、個人的に気に入った音源を20程リストアップ(所謂年間ベスト的な)しつつ、自分の2011年を振り返ることを決意するが、はてさて、この先どうなりますことやら。一応、不安定ではあるがちょっとした目安にするためにランキング形式にしてみた。

No.20.

GLOSS DROP [解説付・ボーナストラック収録 / 国内盤] (BRC288)

GLOSS DROP [解説付・ボーナストラック収録 / 国内盤] (BRC288)

Tyondai Braxtonが脱退した影響か、緊張感と躍動感が刺激的に同位し、難解なのに軽快という摩訶不思議な音像を生み出していた「MIRRORED」から、スリリングさが後退し、代わりに良くも悪くも明快さが前面に出てきてしまった印象だが、個人的には、そのシンプルな軽やかさにセルアウトしたようなポップさが乗っかったカラフルな作風にかなりほっこりさせられた。
相変わらず音作りは緻密なのだが、連想するイメージは明らかに開放的になっており、更にそこへ随所で華を添える様に登場するゲストシンガーとの相性も見事で、特にBlonde RedheadのKazu Makinoをフィーチャーした「Sweetie & Shag」は彼女の透明感あるミステリアスな歌声が弾けたビートの上を跳ね回る興味深いトラックだ。Matias Aguayoを招いた「Ice Cream」では素敵な男の渋い喘ぎ声も聴けちゃうよ。やったねたえちゃん!


No.19.
 Big K.R.I.T: Return of 4Eva

ジャケット写真を見ていると今にも「悪そうな奴は大体友達」とか言い出しそうな雰囲気が漂っている気もするが、いざ蓋を開けてみるとマッチョな厳つさは希薄で、むしろライトな音作りに徹しているような印象すら受ける。と言っても勿論、べたべたなストリングス等で飾り立てただけの軽薄な代物ではない。むしろトラック自体はシリアスな翳りを纏ったものが多いくらいだし、Eminemや50cent程に明快で思わず歌い出したくなるようなコーラスパートが多く用意されている訳でも無い。しかし、うつろな雰囲気のトラックの上で矢継ぎ早に言葉を吐き出すフロウと自重しない鋭いスクラッチが耳を惹く「Rise and Shine」やverseの上でちょいちょいと現れるファルセットコーラスが妙な中毒性を放つ「American Rapstar」、優しげなRaheem De Vaughnの歌声の包容力とメロウ曲でありながらやはり軽快に駆けるラップがいかす「Players Ballad」、ジャジーな雰囲気でフロウにも囁く様なセクシーさが滲み出ている「Free My Soul」、静寂なトラックの上で何処か俯きがちに歌う「The Vent」等、クールネスを振りまきつつも飽くまで聴きやすさにこだわったような仕上がりは優れたポップミュージックとして実に堂に入っている。硬く引き締まったフロウも言葉の一つ一つが叩き付ける様であったり、語りかける様であったりと、中々刺激的に時折表情を変えながら邁進する。小生の様にヒップホップに傾倒しきっていない人にもアピールできそうなストイックにクール×ポップを突き詰めた音源だとしみじみ思う。


No.18.

星の夜の脈の音の【初回限定盤】(DVD付)

星の夜の脈の音の【初回限定盤】(DVD付)

基本的に音から受けるイメージは、大きく括ればLINDBERGとかジュディマリの系譜に当たりそうな女子ボーカルを有する日本のポップロックバンドという感じ。花咲くいろはの主題歌を聴いてそんな印象を強く抱いていたわけで、「甘酸っぱい恋模様とかマジ勘弁ww」な小生は、本来なら彼女たちのフルレンスなど華麗にスルーしていた筈だが、本作のCDの帯にスピッツ草野マサムネがコメントを寄せていたことが気になると同時に、小生がCDを店頭(ツタヤ)で手にしたところなこちの嬉しそうな顔が頭を過ぎったので、聴いてみた。
そして、これが想像以上に胸に刺さるのである。音作りはやはり、シンプルなギター、ベース、ドラムといった楽器が紡ぐ、ほぼノーギミックな安牌ジャパニーズ・ガールズロックな趣。しかし、性急に走り抜ける凛々しくも儚げなオープナーの「セラトナ」「ハナノイロ」の畳み掛けが象徴的な様に、表向きはポジティブ、キュートな様で、実は切々と誰かの心を揺り動かそうとする切実で感傷的とも思える純粋さを特に繊細なメロディーとは対照的に可愛らしいのに力強い歌声に漂わせている様だ。それが小生の内向、ネガティブマインドを悲しくなるほど締め上げたのかもしれない。この甘酸っぱさは作為ではなく、心からの感情表現であると信じたい。
YUIとかが売れるならこのバンドももう少し評価されても良いと思うのに・・・。

No.17.

世界が見たい

世界が見たい

バンド名からして人を食ったような感じだが、歌詞から見られるメッセージ性はその態度が更に露骨だ。陽気な曲調の上でネガティブなことばかり呟いており、その中身もユーモラスにも思えるが内実はかなり下世話でどうしようも無い言葉ばかり。生き辛い世の中に中指を立てているというより、へらへら笑いながら(でも目は死んでいる)皮肉を吐き出しているような、ろくでなしで気持ちの悪い音楽。音作りには、インディロックに拠ったDeerhunterのHalcyon Digestに通じるサイケな毒素を個人的に感じたが、加えて全てに失望したような日本語のメッセージが忌野清志郎風のボーカルに乗せてダイレクトに伝わってくるので、日本人の自分には毒々しさを嗅ぎ取りやすく、改めて音楽の持つ言葉の重み、パワー(メッセージがネガティブでもポジティブでも)についても考えたりもした。
「生きたくないし 死にたくも無い」←よっ、このだめ人間! だけどハゲドーしてしまう自分が悲しい。

No.16.

James Blake

James Blake

所謂ダブステップ畠に身を置く存在という訳で、やはりその深遠でミステリアスな音響に翻弄される事に対して、リスナーとしては快感を覚えはするものの、本作においてそれ以上に魅力的なのはやっぱり歌声だ。
今年、多くの完成度の高いミックステープで話題を振りまいたThe Weekndに通じる、ソウルフルな凛々しさを漂わせた歌声に相対する幾分かの鬱っぽさをやはり彼もその作風に宿している気がする。
しかし、The Weekndの場合は歌声は清涼でありながらもその鬱要素が若干悪趣味な音像と相まって影への誘いにも似た際どい怪しさに通じていた印象を受けた。
一方、本作にはミステリアスな中にもCDの向こう側にいる存在が優しく寄り添ってくれている様な温もりを感じる。
それはやはり彼の歌心に依る所が大きい、と言うのは多分間違いないと思う。トラックは血の通っていない冷ややかさが要所で漂っているにも関わらず、彼の歌声には一貫した芯の太い熱情が脈々と息衝いている。
そういえば、この歌に感情を揺さ振られる感じ、ここ数年でも体感した記憶がある、と思ったら、そうか分かった『Antony & The Johnsons』だ。彼の音源を初めて聴いた時の感覚に近い。
音の組み立て方は明らかに異なるし、歌声もAntony程リリカルに声色を変えて風景描写をしている訳ではないが、一聴するとメロウな歌声の根底に熱い魂を注入している辺り、実は歌い手としては近くに位置しているのでは、と個人的には思ったり。
ダブステップというと、やはり飽くまで空間的な音の歪み、奥行きこそが醍醐味であり、歌声さえもその不可思議な音響世界にリスナーを沈み込ませる為のパーツの一つ、として機能している場合が多そうなのに、本作においてはむしろ、歌声に秘められたパッションを最大限引き出す為にこそ音が木霊している、そんな風に思えてしまう。
このJames Blakeという男は、ダブステップの、或は音楽の新たな可能性を歌の為にこそ切り開かんとする明確な意志を抱き、ジャンルが細分化し、そして先細りしそうな凡庸なシーンへの危機感を払拭しリスナーを繋ぎ止める、極めて重要な新世代ミュージシャンの一人と言えそうである。
テン年代に突入しても、こういうフレキシブルな創造力、確固たる才能を持った若手ミュージシャンがパッと出現してしまうのが実に刺激的だし、頼もしい。
とにもかくにもクラブで踊ってる場合じゃない。
ここには、テン年代以降の希望的観測を察知出来る音が広がっているのだ!


No.15.
+HIRS+: worship' one sided 7

今年一番笑った音源。10曲入り、最長曲は45秒。最短は8秒。曲のタイトルは曲順に合わせたローマ数字が振り分けられているだけ。やる気あんのかww
曲間の違いなんか考える暇も無く、カオティックなシャウト、ノイズを乱射するだけの愛すべき馬鹿グラインドコア。ただでさえ演奏時間短いのにちょいちょいスキットも交えつつ、結局はギャーギャー騒いで即終了。
ボーとしながら聴いていたら、恐らく「アレ、次の曲が流れてこないんだけど。」ってなること請け合い。因みにマシンガンの様なドラミングはかなり格好いいぞ!
愛も憎しみも、戦争も平和も、悲しみも喜びも、メッセージは一瞬の衝動に全て込める。これこそ音楽のあるべき姿だ。だって、僕たちは瞬間に生きているのだから。(この人達が何歌ってるのか知らないけどね!)
歌いたいことがあるんなら、一分以内に全部ぶちまけろ!!



No.14. V.A.: Groundbreaking 2011
 


ヒロイックな女性ボーカルが立った90年代歌謡テイストのメロディーに、時に流麗、時にぎらつくループ音が効いたトラックが派手なfripside風の「rePrayer」、ロリボイスが耳を惹くキュートなテクノポップ「KISS CANDY FLAVOR」はPerfume或いはAira Mitsuki風、他にも強靱なブレイクビーツが豪快に波打つProdigyやブンサテを彷彿とするロック×テクノなナンバー、清らかだがミステリアスなまりん風味のラウンジミュージックっぽい曲なんかもあったり。総じて、俺のような俄でも様々な前例というか、「この曲アレっぽい」的な連想が出来てしまう場面も散見できる訳で、格別斬新な音楽が次々と展開されている訳では無いかもしれない。
しかしだ、単なる亜流ばかりならキッチュなエレクトロの飾り立てに萎えてきてしまうところを、本作の中の人は何れも独自のフックを提示しており、多種多様な仕掛けが施されたエレクトロミュージックが次から次へと飛び出す様は、まるでアミューズメントパークのような無邪気な楽しさがある。
元々がフリーの音ゲーBMS)用に書き下ろされた曲を集めた企画盤と言うこともあるだろうが、最近のcapsuleの作風に通じる小難しさ、インテリさを排し、ひたすら快楽を追求する、まるで悪いドラッグでトリップする様ないい感じに電波が混入した電子音の過剰分泌は圧倒的ですらある。何せ、三枚組の計35曲というはち切れん程のボリュームを、フリーダウンロードで堪能させてくるのだから。
考えたら負けだ、とにかく体感しようじゃなイカ!これでアゲにならないなんて、お前ら人間じゃねぇ!



No.13.

liminal(初回限定盤)(DVD付)

liminal(初回限定盤)(DVD付)

どうしたリア充?踊れよ。
昨年出た石野卓球のソロ作とは全く違った切り口で独自の電子音楽世界を築き上げてると思う。
卓球さんのソロ作には確信犯的な毒の要素がありながらも何処かフロアに対応した熱気も感じたのだが、本作に関してはとことん熱量を排してる印象を受ける。
音の粒子が緻密かつ強靭なビートとして構築されている音作りこそスタイリッシュな質感だが、ここで鳴らされる音が描き出す空気はどこまでもダウナーで、内省的。
「Natural」や「Bluelight」からは無表情な音の反復が荒廃した空間をさ迷っている様な寒々しさに襲われ、時にノイジーに響き、時に重々しく伸し掛かる音像が脳裏に突き刺さる「Beat It」や「Capacity」では毒に侵され、そしてラストのタイトル曲で異次元を漂ってる様な浮遊感すら覚える程の美しさに酔いしれる、等と曲毎に雰囲気を変えながらも、ストイックな面持ちは決してぶれる事はなく貫徹している。
ヒットチャートを眺めているとDQNリア充が戯れ、踊る華やかなクラブとかを連想しがちなテクノ、エレクトロニカ界隈の方々が幅を利かせている気がするものの、当然それだけがエレクトロ・ミュージックの魅力ではない訳で。
少なくとも本作に関してはそういう連中を躍らせる気は一切ないであろう、突き詰めて内へ内へと沈み込んで行くミステリアスな翳りが蠢いている。
スリリングに響く音の一つ一つが酷く冷淡で鬱々としているのだ。
質感として、初めは丁度最近聴き直していたAPHEX TWINの1st辺りに近い印象を受け、リピートするうちに「The Fragile」を出したくらいの鬱絶頂期NINやRadioheadの「Amnesiac」とかにも通じる底無しな暗さを連想した。
これは完全にアゲの為の音楽ではなく、引きこもる為の音楽に違いない。(笑)
なんて素敵なメランコリー。
いいぞ!もっとやれー!!


No.12.
  Frank Ocean: Nostalgia,Ultra.

もしあなたがオリコンチャートに蔓延る日本産会いたい系ワナビーR&Bを無意識に聴かされることによって、リズムアンドブルースというジャンルそのものに違和感や嫌悪感をいだいているとしたら(というか俺自身が割とそんな感じだった)、このミックステープを聴けば或いはそうした否定的な感情は緩和されるかもしれない。
煌びやかなトッラクの上で響かせる朗々とした歌声は甘くほろ苦く、幾分かのセンチメンタリズムも持ち合わせていると思う。主軸となる彼の「歌」には多くのリスナーを酔わすには充分なムードを生み出す歌心が備わっていることも事実だ。しかしそれだけなら結局一番の顧客はオサレ系スイーツがメインになりそうな所だが(別にそれが悪いことでは無いが)、個人的に面白いと思うのはカニエの巧みなサンプリングセンスにも似たColdplayMGMTと言ったロック畠の人気者の音源を随所でネタ的に持ち出して楽曲に組み込むというユーモアである。耳の肥えた音楽ファンなら必ず一回は聴いていると思われる、僕らのRadioheadの大傑作「Kid A」から「Optimistic」を引っ張り出してきて、クソビチに「退屈だから止めてよー。」的なことを言わさせてしまうスキット「bitches talkin’」なんて、実に痛快ではないか。「お前らが神の様に崇めているレディへ様も、リア充の前ではこんな陳腐な存在でしかないんだよ。」というメディアのプッシュするものを盲目的に支持する音楽ファンへの皮肉をたっぷり込めたメタファーか、もしくは、「最近のヒットチャート好きリア充は音楽の上辺しか捉えようとしない。」という音楽を愛するクリエーターとしての嘆きか、彼のメッセージの真意を私は知らない。ただ、推察できることは、本作が耳あたりの良さだけを追求したワックには思いつきもしないであろうジョークを各所に散りばめた非常に興味深いR&Bの音源ということだ。純粋にポップミュージックとして聴いても質の良い旨味を味わえるが、その奥で不敵にほくそ笑む様な性格の歪みこそ彼の音楽の素顔なのだと私は解釈している。世間的な王道に逆らうようなシニカルな視点を持ったミュージックを愛聴する人にこそ響くものがありそうである。


No.11.

Back Room -BONNIE PINK Remakes-(初回限定盤)

Back Room -BONNIE PINK Remakes-(初回限定盤)

これは完全に良い意味で肩の力が抜けた作品。
セルフカバーを中心にアコースティックな音色を基盤にしつつ彼女の歌声へ主にスポットを当てたアルバムに仕上がっている。故にアバンギャルドな実験生は希薄だが、音数を抑えてシンプルなアレンジにこだわった分、楽曲の骨格とも言えるメロディーの秀逸さや、純度の高い歌声等の剥き出しになったスッピンの魅力がしっかりと伝わってくる。
彼女もまた、90年代からゼロ年代を日本音楽シーンで安定した売り上げを維持しながらテン年代に突入した現在までサヴァイブしてきた存在の一人であるわけで、例えば「Heaven’s Kitchen」の様な発表から10年以上経過した様な楽曲を歌っても、経年劣化を感じること無く、むしろ若手には出せないであろう円熟や貫禄が伴った余裕すらそこに漂わせている。
過剰な装飾を避けた編曲の切り口も興味深い。例えば先に挙げた「Heaven’s Kitchen」にしても、原曲の様なメロウな質感の内部に脈々と息づく若さ由来のパッションはやや後退したようにも思えるが、ソフトなリメークによって、その分煌びやかで温かな質感は明らかに増し、落ち着いた彼女の歌声が味わい深くジワジワと胸に染みる。
それは新たに書き下ろされた「Look Me In The Eyes」でも変わらず、時代の時々である程度音楽性を変えながらも、根底にある精度の高いポップネスと何処か陰を帯びたような憂い、それでも前を向くような凛々しさを併せ持った歌声はいつの時代もぶれること無く前進を重ねながら貫徹されている事の表れでもある、と私は感じた。
下手すればものすごく退屈な作品に陥りかねないセルフカバーをキャリアと才能に裏打ちされているからこそ響く、赤裸々だが珠玉のポップミュージック集にまで昇華した力作だ。

No.10.
Mr. Muthafuckin’ eXquire: Lost in Translation

ジャケからして不健全な香りがプンプンするが、中身の方もその期待に添った何とも身体と頭と教育に悪そうな潔く厳ついペアレンタル・アドバイザリー必須の高カロリーヒップホップである。
正確なリリックは和訳も無く、英語力も乏しい小生には分からないが、恐らくは尻軽な女を呼んで、ゴージャスなアクセサリーとドラッグをちらつかせて、体制に楯突いているのだろう。とてもポップには思えないおどろおどろしいトラックから聞こえるサイレン、セクシーな女性コーラス、フェラチオする女のスキット、過剰に太いビート、切れたスクラッチノイズ等に加え、あちこちで吐き出されるファックの言葉を嗅ぎ取れば英語を完全に聴き取れなくともこの音を充分に楽しむことは出来る筈だ。
リッチに成りすぎて試行錯誤が窺えるMCや作り手とは違い、一貫したアングラさである。前述の通り様々なギミックを盛り込んだ派手さはあるが、例えばWatch The Throneで聴けるような煌めきは皆無に近い。「Lovesponge」等で展開するメロウにはなり切らず、仄かにポップネスを漂わせるナンバーでは確かにインテリジェンスも感じはするものの、飽くまで不愉快な喧噪の渦中にリスナーを放り込む猥雑さの上での小休止程度にしか過ぎない感じである。とにかく全体を覆うイメージがハードコア然としている。だからこそラスト二曲で見せつける靄が晴れたような美しさに酩酊してしまう。このメタボにでもなりそうな濃厚な味付けが美味しくて堪らない。



No.9.

艶℃(初回限定盤)(CD付)

艶℃(初回限定盤)(CD付)

全編通して、いかにも石井秀仁らしいキッチュなエレクトロ要素で完全武装したレトロフューチャーニューウェーブ
なんて書き方をしたらGOATBEDの延長っぽい印象を与えかねないが、今回は正式メンバーにツインギターという編成を活かしてか、比較的テクノ/エレポップの範疇を重視した趣だったGOATBEDに対し、こちらはより突発的にガシガシ攻め立てる感じ。そして、基盤を支えるのはポップと言うより飽くまでロック、的な。
荒々しさの一方で独自の美意識も追求している辺りはポジパンに由来しているのだと感じるし、サイバーゴスなヴィジュアルも含め秀仁のルーツをはち切れんばかりに詰め込み、亜流フォロワーを一切寄せ付けない(ていうか相手が近づきもしない様な)徹底したニュータイプ80年代ミュージックを展開している。
けばけばしいエレビートに刺々しいギターの音色、過剰なまでにサイバーな雰囲気を醸し出すシンセの演出等、目まぐるしく押し寄せる音の波を艶やかな秀仁ボイスが颯爽と乗りこなしていく。
相変わらずの抽象的で語感重視な歌詞にも拍車が掛かり、歌詞カードの読みにくさの鬼畜仕様からして、恐らく歌声も音楽を成立させる楽器の一部くらいにしか捉えてないと思う。
性急なスピードにノイジーな音響が荒れ狂う、のっけから真骨頂なデジパンク「BLACK RUNWAY OF DEVILS」、硬質で攻撃型なボディ・ミュージック風ビートにぶっきらぼうなボーカルが腹に響く「E-Z」、完全に機械的な音作りに支配されながらも、一際立った歌謡曲的なメロディーやセクシーな女性コーラスが切なくて味わい深い「EPOC TRACE」、ミドルテンポの上で肉感的な歌声と猥雑なノイズが絡み合う「THE 艶℃BABY」等、進む先を完全に見据え、そこに向けて全力投球。
80年代厨達の本気が炸裂するゴシック、ハード、ダーク、ポップ、グラマラスなミュージックショー。
何より、単なる懐古主義ではなく、その視線は飽くまでネクストレベルに向けられている所がいかす。
メンバー各々の音楽におけるバックボーンがスリリングな音塊となって胸を撃ち抜く、刺激的な一発。
因みに、CD二枚組タイプのDisk2に登場する岡村靖幸鈴木慶一と言った錚々たるメンツによる本編の原曲何処行った?リミックスも強烈。
ミュージックマガジンK-POPでもPerfumeでも安室奈美恵でもなくテン年代に放たれたこのノスタルジー・ニューポップをもっとプッシュするべき。


No.8.
Main Attrakionz: 808s & Dark Grapes II

ヒップホップの音源としての本作を取り巻く空気感は、サイレンや銃声などが鳴り響くギャングスタ・ラップやテンション上げ系なバウンスビート塗れのパーティミュージック集などと比較すれば中々に異質だ。案の定リリックの正確な和訳は分からない状態なので、基本的に言葉よりも音作りの方に耳が行く聴き方になるだが、ストリートの喧騒からは距離を置いているし、今年流行のダブ・ステップと同じく本作を流しながらクラブで踊りたいと考える人は恐らく少数ではないだろうか。ダブやチルウェイヴの領域にまで踏み込んだと思われる冷ややか、深遠、ミステリアスな要素を多く盛り込んだトラック、そこに淡々としたフロウが木霊すると浮遊感やスピリチュアルなムードすら生じている。
反響するラップとWashed Outを彷彿とする無垢なシンセ音が深い森を彷彷徨っているような気分にさせる「Chuch」、これまた今年良質なミックステープを世に放った粘り気を感じるフロウが印象的なA$AP Rockyと共にダークでドープな空間を描く「Take 1」、「Perfect Skies」に至っては、優しく響くピアノの旋律と透き通る様な女性コーラスをループしたトラックとどことなく物憂いなフロウが放つ清らかさが陶酔ものの魅力を放っている。
様々なプロデューサを招いて制作したことが功を奏しているようで、前述したようなドラマチックな音から「Regrets」のようにフロウを引き立てる為に裏方で華を添えるものまで、本作はとにかくどの楽曲もサウンドワークが実に秀逸で、それが異質な空気を生み出すのに拍車を掛けているのだと思う。そしてそこにMCが巧みにラップを乗せていることも忘れてはいけない事実だろう。
ラップミュージックを通して、神聖な空気を吸い込みたければ本ミックステープをダウンロードすることを強くおすすめしたい。


No.7.

TOXIC

TOXIC

メタルやらクラブサウンドやらを組み込みつつも、全体的に王道ダークヴィジュを邁進する様な作風だった前作から一転、今回も相変わらず、エレクトロもヘビィネスも貪欲に吸収しながらも、これまでのちぐはぐな雰囲気はかなり払拭され、吐き出し方が益々洗練されてきた様だ。
結果、受ける印象がヴィジュアル系の枠を越え、より多勢にアプローチ出来そうなラウド/ミクスチャーミュージックとして堂に入った佇まいをしている、という。
正直、「VENOMOUS SPIDER’S WEB」「VORTEX」等でのテクノ要素の取り入れかたは何処か小手先の業っぽく思えるし、「RUTHLESS DEED」「PSYCHOPATH」等のダーク/デスな表現方法にしても例えば先人『DIR EN GREY』程の禍禍しさや直情的な狂気には及ばなく、やはり何処か理性が伴った器用さを感じ取れてしまう。
ただ、このバンドの場合それで良いのだ!、と私は思う。
以前、ボーカルのルキは「憧れの先輩と同じ事をしても意味がない。それをした事で勝ち目がないのは分かっているから。」という旨の発言を雑誌でしていた。
だから、彼等は自分達がやりたい事であったり、好きであったりする他所の様々な魅力を飲み込み、飽くまで独自の味としてアウトプットする。その術が作品を重ねる毎に巧みになり、ようやく一つの到達点に達したのが本作ではないだろうか。
ファストな勢いと鋭く響く演奏でストレートにポップネスを鳴らしたパンキッシュナンバー「SLUDGY CULT」、ヘヴィーな音像が渦巻くデスシャッフル「MY DEVIL ON THE BED」、アグレッシブな展開を取り持つ中盤の叙情的なバラード二連発「UNTITLED」「PLEDGE」等、ハードコアなスタンスに思えつつ、今回はどの曲にもこのバンドの持ち味であるメロディアスで明快なフックが効いているのだ。
また実質的なラストナンバー「TOMORROW NEVER DIES」のメッセージにも注目するべきだろう。
NIL』以降の彼等の作品は何れも、失望や悲哀の漂うミディアムバラードで締められる事が常だったが、今回は軽快なエモロックでそのタイトルからして象徴的な、何時になくポジティブなメッセージを掲げている。
「Don't kill yourself」
徒に死や悲劇を歌うのではない、苦境を乗り越え必死に前を向く姿が今のthe GazettEを体現している様ではないか。
適度なコアさとセルアウト臭、「上手い」と「美味い」が良い感じに調和してきた刺激的な音の一打一打が爽快に胸を打つthe GazettE初の核心盤!
「聞こえているかい?」


No.6.

ウォッチ・ザ・スローン(初回完全限定盤スペシャル・プライス)

ウォッチ・ザ・スローン(初回完全限定盤スペシャル・プライス)

もしかしたら、初っ端の「No Church In The Wild」が既に本作の全体像を端的に表現しているかも知れない。
幕が上がった最大級のショーに対して期待感を早速くすぐられる硬いビートが鼓膜を刺激し、Phil Manzanera、Spooky Tooth、James Brownを大胆かつ巧みにサンプリングした渋いトラックに昂揚、更にFrank Oceanによるほろ苦い歌声に酔い、もう一人の客演シンガーThe Dreamのセクシーな声色でなぞられるミステリアスなコーラスにハッとする。
これだけでオープニングの質感としては余りに贅沢な仕上がりだが、加えてそこへ圧倒的なキャリアに裏打ちされた二人のMCによる貫禄のヴァースが載ってしまう。
ジェイがJesus was a carpenter, Yeezy laid beats/ Hova flow the Holy Ghost Get the hell up out your seats と威厳を示し、カニエはWhen we die the money we can’t keep/ But we probably spend it all Cuz the pain ain’t cheapと戯ける。
ライムに虚勢ではない説得力の伴った鋭利な切れ味が備わった、この二人だから許される説教(preach)である。
その後も、抜群な声量から放たれる伸びやかであり太くもある歌声が強烈に映えるJay-Zの嫁ビヨンセ参加の「Lift Off」、シリアスなトラックでリリックには優しさが生まれた「New Day」、軽快なビートにこれまた豪勢なサンプリングを織り交ぜって突っ切る「That's My Bitch」、オープナーから再登場のFrank Oceanによるスウィートなフックと美しいトラックで浮遊感さえ漂わす「Made In America」等々、ポップミュージックとしても、ヒップホップとしても上質なナンバーがズラリと並ぶ。
ひたすらストリートで牙剥き出しっぱなしのギャングの傲慢でも、ましてちんけなパーティーポップの馬鹿騒ぎでもない強度が本作にはある。
その異質なまでの強さの大本は、何て言うか、すんげー金掛けてるんだろうなー、みたいな事に起因するのだと思う(笑)。
飛び抜けたリッチさ故に成り立っている、厳つくて趣味の悪いハードコアなアングラさとメインストリームに殴り込む豪勢なポップさを同位させたカニエ×ジェイ Zならではの味わい深い魅力を惜しみ無く披露している訳で、当然内輪の単なる道楽では終わっていない。
Pitchforkで満点を叩き出したカニエの『My Beautiful Dark Twisted Fantasy』は革新的なアイディア、ユーモアで以て一曲一曲が鮮烈な存在感、灰汁の濃さを有していたにも関わらず、尚かつ一枚通して聴いた後に更に壮大なストーリーが展開されていた様なトータリティの高さまで提示し、形骸化されたラップミュージックの枠を越えた傑作でしたが、本作にはああした深遠さ、懐の深さなどは希薄な印象を受ける。
ここにあるのは、押し寄せる予見不可能な衝撃や感動、ではなく、豊富なサンプルに華やかなゲスト、強靭なビート、そして、下積みを疾うに経てすっかり勝者な主役二人の自信とスキルに満ちたラップが織り成す、飽くまで期待通りの安定したスリル。
ゴージャスに次ぐゴージャスでジャケまで金ぴかになってしまう事態。
滑稽なまでにセコさを排除したブルジョアな振る舞いで王座を不敵に眺める。
「俺等が組んでる時点でヤバいのは当然だろ?」という絶対的安心感だったり、或いは、「金掛けて優れたミュージックを生むってのはこういう事だぜ。」的な、荘厳さだとか作品への評価までも悠々と金と名声で平伏させてしまう、こうした自己顕示こそ本作で彼等がやりたかったことなのでは、とすら思ったり。
結果、元来濃厚な味付けが好みな小生は、コアなヒップホップファンの方からしたらキッチュにすら思え兼ねない本作を高級な食材を次々と金掛けて調理した、偶のフルコースでも目の当たりにした様に、どこかでたじろぎながらも喜んで何度も腹に詰め込むのでありました。
こんなの食べちゃう俺まじリッチ。
寂しい、恋しい、会いたい、そんな口に合わないワックなビタースイーツはビッチの口にでも捩込んどけばいいのさ(キリッ・・・とか言ってる時点で俺はやはり裕福ではないが、だからこそこんなセレブリティーに憧れる。


No.5.

megaphonic(初回生産限定盤)

megaphonic(初回生産限定盤)

何て伸びやかで心地よい音楽なのだろう。
90年代をすさまじい勢いで駆け抜けたジュディマリ解散以降も衰退すること無く上質なポップミュージックを多くオリコンチャートに投下してきたYUKIであるが、ここ数作での益々円熟した歌声や作風には本当に目を見張るものがあると思う。正直、そこまで熱心に聞き込んでいた訳でも無い俺がこんなことを書いて良いのか分からないが、ジュディマリのそれこそ一部では神格化したような扱いには結構疑問を抱くことが多い。それは取って付けたような乙女心を吐き出す亜流ジュディマリフォロワーの生き急いでいる感や惚けている感を尻目に、ゆとりを持った自由な作風で連中を煙に巻くようなソロミュージシャンYUKIのアティテュードがジュディマリの頃の所謂カリスマ性(とよくテレビで紹介されている気がする。)より遙かに艶やかで、刺激的だと俺が感じる事に起因するのかもしれない。
近年のYUKIの歌声は勇壮でキュートでは無く、もっと男を発情させかねない肉感的なエロスがある。最早何の新鮮味も無いはずである近年のJ-pop御用達の4つ打ち曲「揺れるスカート」、一際エレクトロ寄りの「クライマー・クライマー」等、前作以上に音色がケバくなった様に思えかねない場面においてもアレンジャーの手腕と歌い手の味が加われば、テクノ紛いとは一線を画するムーディーな空気を描いた彼女ならではのポップスの雛形として成り立つ。普遍的で王道なラブバラード「ひみつ」におけるストリングスやピアノの余りにベタな装飾や彼女にしては下世話な言葉も今だからこそ感涙出来る美しさを伴ってリスナーの心に溶け込むのだろう。
セルアウトすることなく、またスノッブ臭い堅苦しさも無く、一筋縄で大衆に迎合しないロックっぽさがあり、音楽ファンが食いつきたくなる様な崇高に思えるポップスネスもあり、JKも憧れる感じに聴きやすいJ-popでもある。これで売れてもいるんだから、ちょっとムカツクくらい理想的な立ち位置だ。


No.4.
  The Weeknd: House Of Balloons

DRAKEのフックアップで注目を集めたAbel Tesfayeのプロジェクト。
DRAKEプッシュという事で勝手にヒップホップ界隈の方かと思っていたら違って、ジャンル的には一応R&Bという位置付けが妥当な感じ。
R&Bというと、近年ではすっかり本来の意味合いを無くし、ヒットチャート直結のセルアウト臭ばっかりが漂うスイーツ向け音楽、みたいな印象(偏見)を抱きがちになってしまいそうだが、一口にR&Bと言っても他のジャンルと同様、当然複雑に細分化し、ミュージシャン独自の色が出てくる訳で。
ここには、浮ついたチャラさ、ヤリ○ん、ビッチな下世話なセクシーさはほとんど感じず、リア充の痴話喧嘩等とは性質そのものが異なる、ミステリアス、シリアスな空気に支配されている。
本作の軸と言っても過言ではない比較的ハイトーンなボーカルは徒にオートチューンなどの香水を振り掛ける事なく、真の意味での艶やかさを有しており、一方では物憂いな表情も想起させる。
それと呼応する様に、或はその歌声の魅力を最大限引き出す為に、歌メロは基本的にマイルドでありながらも、その奥では繊細なメランコリーが立ち込め、過剰な主張をする事はなくとも、シンプルな音の一つ一つがメロウ、ディープな陰を纏ったムードを作り出すのに奮闘している印象である。
クールな音像でありながらも、歌が放つ体温が確実に宿っている音楽性や仄かに内包しているダブステップ要素から、個人的には今年各所で大好評のJames Blakeを連想したりも。
ここぞで涙腺を刺激するコーラスの重ね方や、硬質かつ無機質なビート、ととことん冷淡で、時に美しくも狂気的であるループ音等、トラックの冴えも抜群で、「Coming Soon」ではヒステリックな女性の日本語による台詞をサンプリングするというアバンギャルドな側面をあからさまに提示している。
そう、これは単なる夜のリラックス促進剤ではなく、悪魔の調合と言えそうな明らかにリスナーの神経を痺れさせる毒薬でもあるのです。


No.3.

魔女狩り

魔女狩り

初っ端「90年代」では開始早々過剰な程に仰々しいディスコビートを叩き付け、次の「バブル」ではイントロ聴いた瞬間にタイトル通り、嫌でもジュリアナ東京等のバブリーな時代背景を想起させてくる。
90年代初頭な頭二曲を抜けると、続く「待つ女」「火の鳥」では前者はミドルテンポ、後者はファストと体感スピードは異なれどどちらも昭和ムード歌謡の様なメロディーを展開しており、更なるタイムスリップ。
しかし、時代錯誤なギミックで威嚇しながらも、単なる虚仮威しでは終わらず、バリバリに歪む破壊的側面もドラマを後押しするしなやかな側面も兼ね備えたバンドアンサンブルや渋い低音ボイスから、上擦り気味な不安定さ、耳がキンキンする程の高音まで吐き出す表現力豊かなボーカルというメンバー各々のスキルや存在感が光りまくっている所が味噌。
中でも、このバンドの濃さが一発で伝わるってくる「フランス人形の呪い」は呪術的でおどろおどろしいボーカルのヒステリックな感情の高ぶりが聴いてて身震いしそうな程強烈。
その後も、仄かに香るポップネスとダンサブルなリズムが爽快な「80年代」、終末に向かい荒々しくなるリリカルな演奏が物悲しい演出を助長する「コスモ」、ラストはロック的ダイナミズムとベタなまでの泣きメロが手を取り合ったロッカバラード「棘の海」で感動的にフィニッシュ。
最初から最後まで、引き出しの多彩さを提示しながらも、灰汁の強さは終始健在で突っ切る様に尽くツボを撃ち抜かれた。
テン年代の訪れと共にTHE BAWDIES毛皮のマリーズ等ともまた違う時代逆行型の素晴らしいバンドが出現したものである。
まるでカルトムービーにも似た狂気を孕むセンセーション。
これを単なるポーズと取るか、それとも・・・。
少なくとも小生は完全に惚れた。


No.2.
Clams Casino: Instrumental Mixtape

ヒップホップ畠のトラックメーカーが放つ、タイトル通りラップ等の「声」ではなくサンプリング等を駆使した「音」のみで綴るミックステープである。私にとって本作は恐らく、淡泊な生活に明色を塗る為のBGMや疲弊した心をケアするためのアイテムとしては機能しない。荒んだ心を落ち着けてくれそうな流麗なサウンドは確かに展開されてはいるが、単なるヒーリングミュージックとして聞き流すには余りに中毒的だ。神秘的な幻想を夢見させる、幻惑的なドープ成分がこの言葉無き音源集には閉じ込められている。
降り注ぐ雨粒の様にきめ細かく、透明感に満ちた狂おしいほど不穏な音像はアンビエントとかダブ・ステップと言ったジャンル云々の壁を越えて、脳裏に溶け込み、理性を蝕む。
これは痛んだ傷口の根本的な治癒では無く、傷の痛みを一時的に麻痺させる為の音楽だろう。


No.1.

テイク・ケア

テイク・ケア

  • アーティスト: ドレイク,リック・ロス,リル・ウェイン,シャンタール・クレヴィアジック,ザ・ウィークエンド,リアーナ,バードマン,ニッキー・ミナージュ,アンドレ 3000
  • 出版社/メーカー: ユニバーサル インターナショナル
  • 発売日: 2011/11/30
  • メディア: CD
  • 購入: 1人 クリック: 1回
  • この商品を含むブログ (4件) を見る
ヒップホップのリリックに登場するものは? ラップするテーマは? ジャンルから連想するイメージは?
Fワード? Nワード? 自己顕示? ワックへのディス? 泥臭いサグライフ? アンチ体制? あの娘がどれだけ淫乱か? ドラッグでどれだけハイになるか? 
恐らく全てあり得る。バイオレンスで近付きがたいクールネスが魅力のやばいミュージックっていうのが俺が理想とするヒップホップのパブリックイメージだ。
甘っちょろい応援歌なんて偽物で正直口に入れたくは無い。無責任に片思いの女の子の背中を押すだけのJ-popミュージシャンがヒップホップユニットと名乗ることには流石に違和感しか覚えない。もっとハードコアに、或いはスマートに、クールに成らなくちゃ。
・・・だけどね、あるんだよ。ここには浮ついていない真摯な優しさも美しさもあるんだよ。こんなにもナイーブで繊細で人懐こいヒップホップに出会えた事がとっても嬉しい。最高だ。





2011年を振り返って・・・。

2011年を振り返ってみると、世界的にみても色々と過酷だったりしんどかったりする出来事が多かった様に思うし、とにかく少々普通ではない様な一年だったのではないかな、と低能なりに感じています。そんな中で、俺の不平など実にちっぽけなものなのかもしれないし、俺の想像を絶するご苦労をされている方を思うと軽々しくこんな事を口にして良いか分かりませんが、個人的にも2011年はろくな一年ではなかった。ちょいちょいと貴重な体験や出会いもあったりしたけど、それ以上に何処か空虚で大切な身内にも結構不幸なことがあったりして、だけど俺には特別な事も出来なくて・・・。
あんまり俺のどうでも良いプライベートを垂れ流すのもアレだけど、そんな中で例年以上に音楽に支えられている様な一年だった気がします。別に格好つけて書いている訳では無く、他に楽しいこともあまりないし、純粋にその様に感じる機会が多かったのです。例年以上に金欠で、新譜の購入は余り出来なかったのだけど、歩いて行ける距離にツタヤがオープンして、二週間くらい待てば邦楽の新譜はレンタルできたので、ミーハーなものだから節操なく手を付けていた。ツイッター等で公式フリーダウンロードの情報も結構入ってきたりして、そこでも刺激的な音楽に多く出会うことが出来たと思います。中でも、ヒップホップはフリーのミックステープでも完成度が高いものが次々とネット上にうpされて、カニエ×ジェイの作品を発端に再びヒップホップ熱に火が付いた事もあり、貪るように落としていました。その結果、自分の年間ベストもその界隈の音源が多く成ってしまいました。ネット上だけで生産と消費が行われる、という新しい音楽ビジネスの土壌が益々固まってきたことを感じさせる興味深い事象かもしれないですね。
記事先頭の完成度の低いジャケ写のコラージュは適当に、今回自分が選出しなかったけど、チェックしていた作品を中心に並べてみたのですが、年間ベストと言っても趣味で勝手に書いているクソ素人のものなので、特に上位の作品以外は気分次第で他の作品と入れ替わりそうな感じもしますw
それ位、今年は色々と面白い音楽に出会えた気がしていますね。
そんなこんなで節約しつつも、割れにはならずに音楽を出来るだけ沢山聴こうとした、良いんだか悪いんだかよく分からない音楽ライフでありました。
因みに上記でアマゾンアフィリではなく、画像を貼り付けている音源は全て合法フリー配信がされているものなので、ググれば簡単に手に入ると思います。俺の抽象的な文章では魅力が伝わってない部分が満載だと思いますが、未聴で興味が湧いた作品があったら是非探してみて欲しいです。(←お前がリンク貼れや、とか言っちゃう系?)
そういえば以前、(確か)久保憲司が「音楽に癒やされるなんて言う奴は大嫌いだ。」的な事を雑誌で述べていて、人に流されやすい小生は何となく「音楽に癒やしを求めてはいけないのかー。」と心の何処かで思ったりしましたが、今年改めて「別に良いじゃん。音楽に癒やされても!」と考える様になりました。
少なくとも今年私は、「新しい音楽に出会う。音楽を聴く。」という行為そのものに癒やされていたとしみじみ感じている次第です。そうすることで、自分のつまらない生活に少しだけ新鮮な光が差し込んだように思えたのです。
うだうだうだうだと、中身の薄い文章を垂れ流してきましたが、とりあえず年の瀬を無事に迎えられた事に感謝しつつ、2012年もこんな感じでイタいブログを書いていければ、それはとっても嬉しいな、と思ってしまうのでした。
後、プライベートも何とか充実させたいです!(迫真)
はてなでの初エントリがこんな内省的な意味不明の内容で読んでくれている方には申し訳なく思っています。
こんな感じのかわいそうなお友達ですが、何卒よろしくお願いいたします。